私が働いていたのは、都内の観光名所の一つでもあり、外国人も多く来る場所にあるフレンチレストランでした。

フレンチレストランと言ってもカジュアルな感じで、誰でも気軽に利用できるような雰囲気でした。

仕事は主にホール・接客で、当然オーダーの受付も含まれています。

来店したお客さんにお冷や(水)と共にメニュー表を渡すのですが、メニュー表は英語と日本語の両方表記があるので、英語が話せないスタッフでも、外国人のお客さんは指をさしてくれるので、さほど問題はありませんでした。

しかしながら時々突っ込んだ質問をしてくる外国人の方もいるので、バックヤードにはあらかじめ想定される質問を英語で書いたカンペが置いてありました。

私は学生時代に結構英語が得意だったこともあり、そのカンペの内容をほとんど頭に入れて覚えており、こっそり発音練習までしていました。

まさかそれが仇になるなんて、当時は全く思いも寄りませんでした。

ある日、外国人の団体客が十数人やってきました。

たいていこういう場合、ほとんどのアルバイトスタッフが英語を話せないのでアタフタして応対するはめになります。

オーダーを取るのもみんな一苦労でしたが、ある程度は理解できると自負していた私は割と冷静に対応していたつもりでした。

例のカンペの決まりセリフ「コースはお肉とお魚が選べるようになっています」「ランチは14時までオーダー可能です」などをさらっと言うと、お客さんも納得したようだったので内心ホッとしました。

そして、普通のネイティブが話すくらいのスピードでガーッと話しかけてきました。

さすがに理解できず、カンペにはない想定外の質問ばかりだったので、とりあえず分かったつもりでウンウン頷いていました。

注文を伝えに厨房の方に戻るとき、同じアルバイトの子がさも関心したように
「すごいね!英語しゃべれるの?私全然理解できなかった~」
と話しかけてきました。

「決められたセリフしか言えないから、たいしたことないよ」
と私は言いましたが、内心少し鼻が高かったのを覚えています。

しばらくしてその団体客の方にも料理が全て運ばれ、一安心…となるはずでした。

すると、私が注文を受けたお客の男性が、1人のスタッフを呼びました。

応対したスタッフは元CAのバイリンガルお姉様。

英語は私とは比べものにならないほどペラペラです。

お客の男性は何事かを訴えていました。

どうやら彼はアレルギー持ちだったらしく、「卵を抜いてほしい」と事前に伝えたにも関わらず、運ばれてきたお皿には卵が使われていたので「どういうことなのか説明してほしい」と伝えたらしいのです。

その事実を知った私は驚愕。

理解できない英語にウンウン頷いてしまった自分を深く反省しました。

男性客の方も私の決められた英語の言い回しから「この子は英語が話せるんだ」と思い込んでしまったために、まさかこんなことになるとは思っていなかったようです。

取り返しのつかないことになる前に気付いてくれたのも、不幸中の幸いでした。

私はそのお客さんと厨房にいる部長に謝り、もう一度卵抜きのメニューを作ってもらいました。

この件以来、私は自信が持てないときは英語を使うのを控えるようになり、外国人のお客さんのときは特に慎重に注文を確認するようになりました。

何事も過信せず、確認を怠ってはいけない、と痛感した出来事でした。