学生時代、喫茶店でアルバイトをしていました。

いわゆるウエイトレスとして、お客様の注文をうかがってキッチンにそのオーダーを通し、出来上がって来たものをお客様へ運ぶ、という仕事をしていました。

駅のすぐそばにある喫茶店でしたので、電車の待ち時間にさっとコーヒーを飲んでいかれる方や、朝のモーニング目当てで来られるサラリーマン風の方などのお客様が多かったのですが、ごくたまにお子様連れのお客さまもいらっしゃることがありました。

お子様向けのメニューとしてはミックスジュースやワッフル、プリンなどが人気がありました。

パフェは一般的な逆三角形のグラスに、生クリームやアイスクリームがたくさん入った子供心をくすぐる見た目だったのですが、少し値段がお高めだったのであまり人気は無かったように思います。

人気が無くそれほどオーダーを通すこともなかったので、お客様へ運ぶ機会も無かった私ですが、ある日5歳くらいの男の子とその家族が来店し、パフェを注文されたのです。

初めて「パフェワンです!」とオーダーを通し、トレイの上に小さなお皿を出してその上にペーパーナプキンを敷き、綺麗に出来上がって来たパフェのグラスをそのペーパーナプキンの上に置きました。

キッチンの近くの席にいた5歳くらいの男の子は、私が持ったトレイに載っているパフェを見て、「あ!僕のパフェ!」と嬉しそうに目を輝かせていました。

そうだよ、僕のだよ~と思いながら私はゆっくり近づいて、「お待たせしました」と言いながらパフェの載っている小さなお皿をトレイからテーブルへ移そうとしました。

が、その瞬間、パフェの逆三角形のグラスは小さなお皿の上でバランスが取れずにグラグラッと揺れ、まるでスローモーションのごとくゆっくりと地面へと落下していきました。

男の子はビックリした顔をした後、あっという間に泣き顔に変わり「僕のパフェが~!」と泣き出してしまい、私はひたすら謝るしかないという状態に。

すぐに店長がやってきて一緒に謝ってくださり、幸い誰にも怪我も汚れも無かったのでさっと床掃除だけして、キッチンで新しく作ってもらったパフェは私ではない他の方が運んで事なきをえました。

男の子にも笑顔が戻り、心底ほっとしたのを覚えています。

それからというもの、不器用な私にはパフェを下のお皿ごと運ぶのは無理だと気付き、パフェを運ぶ時にはテーブルにまずパフェの下の小さなお皿だけを置き、次にパフェのグラスを持ってその上に載せる、という二段階での移動で運ぶようにしていました。

そうするようにしてからは、失敗もなくお子さんの落胆した顔も見ずに済むようになりました。

でも、その後もごくたまにパフェのオーダーが入るといつも持っていく時にとても緊張したのを覚えています。